
人事制度は、時代や社会の変化に合わせて進化してきました。昭和の年功序列・終身雇用に始まり、平成の成果主義導入、そして令和では多様性や働き方改革が求められるようになっています。本記事では、昭和・平成・令和という3つの時代を軸に、人事制度の変遷とその背景を年表とともにわかりやすく解説します。それぞれの時代で制度がどう変化し、どのような企業課題や労働観が影響していたのかを読み解くことで、現代の人事制度のあり方や、今後の見直しのヒントも得られるはずです。人事担当者や経営者、人事制度改革を検討している方はぜひご一読ください。
目次
1.【年表】昭和~令和の人事制度の変遷
年代 | 時代区分 | 主な人事制度・キーワード | 背景・社会動向 |
---|---|---|---|
1950年代後半 | 昭和 | 終身雇用、年功序列、企業内訓練 | 高度経済成長期の始まり、人口増、正社員中心の雇用 |
1960~70年代 | 昭和 | 年功的昇進・給与、社内教育、職能資格制度 | 高度経済成長が本格化。会社=生活の場 |
1980年代 | 昭和 | 組織内キャリアパス整備、管理職研修 | 安定成長・バブル期前夜。管理職育成が重視される |
1990年代 | 平成 | 成果主義、職能給から成果給へ転換 | バブル崩壊、就職氷河期、グローバル化 |
2000年代前半 | 平成 | 能力主義、目標管理制度(MBO)導入 | 組織スリム化、非正規雇用増、外資の影響拡大 |
2010年代 | 平成 | コンピテンシー評価、役割等級制度の導入 | デフレ経済の長期化、若手離職増、働き方多様化 |
2020年以降 | 令和 | ジョブ型雇用、リモートワーク評価、人的資本経営 | 働き方改革、コロナ禍、DX・リスキリングの進展 |
1-1 人事制度の時代別年表(1950年代〜2020年代)
人事制度の変遷を時系列で見ることで、時代背景との関連性が明確になります。1950~70年代の昭和では「終身雇用・年功序列」が標準でした。バブル崩壊後の1990年代に入ると、平成のキーワードは「成果主義」と「能力主義」。2000年代後半にはIT化の波とグローバル競争に対応した職能・役割型評価が広がります。そして令和(2020年以降)では、働き方改革や人的資本経営が注目され、「ジョブ型雇用」や「自律型人材育成」が制度の中心に据えられつつあります。こうした流れを把握することで、自社に合った制度構築のヒントが見つかるはずです。
1-2 各時代の制度変化を一望するポイント
時代ごとの人事制度を比較する際は、「評価軸の変化」「雇用形態の多様化」「社員との関係性」の3点に注目すると理解が深まります。昭和は年功と忠誠を重視し、企業と社員の関係は「家族的」でした。平成は成果や業績評価が重視され、能力主義へと移行します。そして令和では、働き方の自由度や心理的安全性、多様性を尊重する方向へと進化しています。年表を通じてそれぞれの制度が生まれた背景を知ることで、制度が「企業都合」から「社員との共創」にシフトしてきた過程が見えてきます。
2.昭和の人事制度:安定成長と終身雇用の確立
2-1 年功序列・終身雇用が主流になった背景
昭和の日本では高度経済成長を背景に、安定した人材確保が重要視されました。その中で確立されたのが「年功序列」と「終身雇用」です。長く勤めれば自動的に昇進・昇給する仕組みは、社員にとって安心感を生み、企業にとっては長期的な人材育成が可能となりました。また、労働市場の流動性が低かった当時、社員を長期間囲い込むことで企業のノウハウや組織文化が蓄積され、競争力にもつながりました。人事評価も「人柄」や「勤続年数」による相対評価が中心で、個別の成果やスキルは重視されていませんでした。
2-2 企業にとってのメリットと制度の限界
年功序列と終身雇用は、企業に忠誠心の高い人材を安定的に育てるという意味で効果的でしたが、制度の限界も次第に明らかになります。能力に関係なく昇進する構造は、優秀な若手のモチベーション低下を招くこともありました。また、外部人材を登用しにくく、組織の硬直化につながる弊害も見られました。経済が右肩上がりの時代には機能していたものの、バブル崩壊やグローバル競争の激化により、昭和型人事制度は持続可能性に疑問が持たれるようになっていきます。
3.平成の人事制度:成果主義と個人評価の時代
3-1 バブル崩壊と成果主義導入の流れ
1990年代、バブル経済の崩壊とともに日本企業は大規模な業績悪化に直面し、人件費の圧縮と組織改革を迫られました。その中で登場したのが「成果主義」や「能力主義」といった個人の実力を重視する新たな人事制度です。企業は、従来の年功的な評価を廃し、成果に応じた処遇や報酬制度を導入することで、社員のパフォーマンス向上とコスト最適化を図りました。管理職にも明確な目標設定と成果管理が求められ、昇進や報酬に個人差が生まれるようになります。
3-2 職能給・職務給制度へのシフト
平成時代には、「職能給」や「職務給」の導入が進みました。職能給は能力の高さによって報酬が決まる制度で、職務給は業務の難易度や責任範囲に基づいて給与が設定されます。これにより、社員一人ひとりのスキルや成果が評価されやすくなり、従来の画一的な昇給体系とは異なる個別最適化が進みました。しかし、成果主義は社内競争を激化させる側面もあり、評価基準の不明確さや短期成果への偏重といった副作用も指摘されるようになりました。制度の運用には丁寧な設計と対話が必要だったのです。
4.令和の人事制度:柔軟性・多様性・個別最適の時代
4-1 働き方改革とリモートワークの影響
令和に入り、政府の「働き方改革」やコロナ禍による影響で、テレワークやフレックス勤務など柔軟な働き方が一気に普及しました。これに伴い、人事制度も出社前提から脱却し、「成果・プロセス・自律性」に重きを置いた評価軸へと変化しています。また、労働時間ではなくアウトプットで評価されるようになったことで、働く場所・時間の自由度が高まり、多様なライフスタイルや価値観を尊重する制度設計が求められるようになりました。管理職もマネジメントの在り方を再定義する必要に迫られています。
4-2 ジョブ型雇用・リスキリングの導入背景
グローバル化・デジタル化が進む中、ジョブ型雇用へのシフトも加速しています。これは「職務(Job)」を明確に定義し、その責任に応じて人材を配置・評価する制度です。年功や役職に頼らず、スキルや実績を重視する点で、昭和型の制度とは一線を画します。また、終身雇用が揺らぐ中で、「リスキリング(学び直し)」や「キャリア自律」を支援する施策が注目されています。企業は社員の成長支援を通じて、変化に強い組織をつくる必要があり、制度もその実現手段としてアップデートが求められています。
5.これからの人事制度に必要な視点
5-1 高齢化・多様化・DXにどう対応するか
今後の人事制度は、少子高齢化・価値観の多様化・DX(デジタルトランスフォーメーション)といった大きな社会変化にどう適応するかがカギとなります。高齢社員の活用、外国人・女性・障がい者など多様な人材への対応、AIや自動化の進展にともなうスキルの再構築が必要です。一律的な評価や昇進制度ではなく、個人の状況やキャリア志向に合わせた「パーソナライズド人事制度」の導入が進むと予想されます。人事制度は「画一的」から「個別最適」へと進化していくべき時代に来ています。
5-2 過去の制度を踏まえた未来志向の設計法
昭和・平成・令和という制度の歴史を踏まえ、未来に向けて人事制度をどう設計していくかが問われています。過去のような一律型制度には限界があり、今後は社員一人ひとりの価値観や強みに応じた柔軟な制度設計が求められます。そのためには、制度の「目的」と「運用」の両軸を明確にし、現場と対話しながらPDCAを継続的に回す仕組みが必要です。制度は形ではなく、企業文化やマネジメントと連動して初めて機能します。これからの人事制度には、過去の教訓と未来志向のバランスが不可欠です。
まとめ:人事制度の変遷を理解することの意義
昭和・平成・令和を通じて、人事制度は時代の要請や社会環境に応じて大きく変化してきました。昭和では長期雇用と年功序列による安定が重視され、平成には成果主義や職能評価を通じて個人の能力に焦点が当てられました。そして令和では、働き方の多様化やテクノロジーの進化を背景に、柔軟性・自律性・多様性がキーワードとなっています。制度の変遷を正しく理解することは、過去の教訓を生かし、未来の制度設計に活かすうえで欠かせません。自社にとって最適な制度とは何かを考えるためにも、人事制度の歴史と背景を振り返る視点がこれまで以上に求められているのです。